2、献上珈琲との出会い
その頃、37年ほど親しく友人以上の付き合いをしていた先輩がいた。先輩というよそよそしい関係ではなく、正しく兄弟以上の関係であった。二つ歳上で困ったときは何時も相談に乗ってくれた。況してや、初めて上京した時は常に後ろから付いて行き、その人のベルトに指をひっかけて着いて歩いた。所謂、義兄弟のような人に相談したら一緒になって喜んでくれた。
じゃぁ、これから自家焙煎コーヒーをやろうといって盛り上がった。平成20年11月、店名はブラザーズ珈琲に決めた。そして案内してくれた人と共にある朝早く、霜が降りていた寒い日、職人の店を尋ねた。その人は、歳にして七十前後であった。髪は完全に白髪であったが、顔つきや人柄は明るく穏やかな人であったので私たちは安心した。何せ、献上コーヒーの職人と聞いて緊張していたのである。
挨拶も簡単に済ませると直ぐに自家製のコーヒーを出してくれた。そして、その場で感想を言ってくれという。コーヒーの感想など私に言えるはずもない。が、もう既に目の前にはコーヒーが出てきている。ゴチャゴチャと言っている暇は無い。一口飲んでみた。うむっ!これがコーヒーか。これまで経験したことのないものであった。
華やかで、フルーティな紅茶のようであった。勿論、砂糖やミルクなど無関係の味わいである。これまで、コーヒーには砂糖、ミルクは必須品だと思ってきたが、無い方が良いことが分かった。コーヒーの味即ち、苦味、酸味、旨み、香り、コクがバランス良く口の中に広がった。これまで飲んできたコーヒーは砂糖湯だったことが分かった。生まれて初めて経験した飲み物であった。これが、献上珈琲との出会いだった。
以上