ブラザーズ珈琲物語8

ブラザーズ珈琲物語8

少年J君の記憶3
それから23ヶ月は順調に通ってきていた。ところがある時から再び遅刻が目立ってきた。勿論昨晩友達とパーティでチョット騒ぎすぎたという理由はあったが、それは若いから仕方ないなぁといって大目に見ていた。でも、ある時から何だか不自然な遅刻の理由が目に付き始めた。それは、通勤途中の電車の中からの報告であった。始めは何時ものことだろうと思い気にも留めなかったが、余りにも繰り返すので問い糺すことにした。

すると、遅刻の理由が分かってきた。そもそも、学校を休むようになった理由に繋がっていたのである。つまり、学校では気の優しいJ君は不良グループにいつも絡まれて嫌気がさしていたのだった。更に不登校になると電話で何だかんだと絡み脅してくるので電話番号を替えてしまったのだ。そうすると不良グループたちは更にエスカレートして、J君の乗車する駅で待ち伏せして、車中で嫌がらせして、殴る小突く、たばこ吸引を強要する。

時間を遅らせてもしつこく待ち伏せしていたそうである。それでJ君は遅刻したり、欠勤したり不安定な勤務になっていたのだった。そうこうしている内に、とうとう来なくなってしまった。しまった、元の木阿弥かという不安が頭を過っていたころ、J君のお母さんから電話が入った。J君が不良グループに呼び出されている店の近くのコンビニの駐車場らしい。両親とも不安と怖さでガタガタ震えている。わたしは直ぐに店の者に助けに行くように指示した。

するとJ君を丁寧に指導し、いつも楽しく温かく見守ってくれていた女性従業員のS子がJ君救出行動に志願したが、これではあまりに頼りない、確か歳は30ぐらいなのだが、まだ娘っ子の可愛い女の子であった。こんなのが助けに行っても効果はないことは明らかであった。もっと気合のある男は居らんのかぁと言ってもいるのは私より2つか3つ上の先輩従業員だけである。仕方ない、年寄りでも娘っ子よりましだと思い、言って来てくれと頼んだ。

その老人はバット持って行くという、えらく気合が入ったもんだとも思ったが何でも良い行ってくれと頼んだ。本来なら社長の私がJ君を助けに行くべき事は重々分かっていたが、もし万が一不良高校生と会社の代表取締役が取っ組み合いになり怪我でもさせたら社会的にも教育現場でも地域社会でも不味いことになるかもしれないと思い、私が出向くことは控えておいた。

兎に角二人と、J君の両親が指定されたコンビニの駐車場に出向いて行った。・・・・・。しばらく待っても何の報告もない。何となく不安な気持ちに成ってきた。大丈夫だったろうか?何が起きたんだろうか?それから2時間くらいしてから従業員2人は戻ってきた。呼び出された指定の場所には誰も来なかったという。J君もご両親も一安心であった。

それからのJ君はまるで人が変わったように明るく元気で積極的になってきた。
半年もすると私は何も干渉しなくても安心だった。店のすべての業務即ち、コーヒー豆の洗浄、天日干し、ハンドピック、焙煎、ドリップ、接客、レジ係1年チョットでこんなにも変化するのか?と驚いたものだった。これが若さというものかと実感した。

しかし、素晴らしいと喜んでばかりは居れなかった。J君に此処でずっと仕事をさせてはいけないという思いになっていった。若い時の苦労は買ってでもせよというが、苦労の前に学問が必要だと思った。やはり、現代社会で中卒は厳しいぞ、況してや男子、高卒ぐらいは必要だと思って、通信教育や定時制高校、インターネット高校など調査してみた。

そして一番J君に相応しいと思えるNHK学園の資料を集めてJ君に話してみた。高校に行ってみないか。学問は必要だよ。歳をとってからでも良いが、出来れば若いうちが楽だよと言ったことを今も覚えている。

ところが、J君の返事は耳を疑うような返事だった。僕は大学に行きます。ええっっ何ィィ。びっくりしたのはこちらだけで、本人はニコニコしている。どうしたんだぁ。というと、高卒認定試験、昔の大検であるが、これを受けて大学に行くというのである。まぁ何という事だ、若いという事はすばらしい。じゃぁ、早めに仕事を切り上げて勉強するか、ハイ、そうしたいです。元気に明るく、きっぱりと言ったものである。

定時の午後6時までの勤務は酷な話である。4時までにしよう。しかし、まだ勉強時間が足らないという。じゃぁ3時までに切り上げた。暫くしてまだ足らないという。それはそうである、3年間通学し受験準備した者と3ヶ月自習したものが競争出来る訳はなかった。分かった、もう仕事はやめて受験勉強に専念しよう。ハイっ、ありがとうございます。もう嘗ての暗く捻くれて、体も捩れていたJ君を想像することは出来なかった。

一浪はしたが、2年目には確実に東京の明星大学に合格した。今では東京の中堅のIT会社に就職して、そこでも鳥取県出身の社長から見込まれて将来を嘱望されていると聞いている。そして、いつもJ君はどうしているかな、ご両親はどうしているかなぁと想い起すのみである。 
                 青年よ大志を抱け、神の元に。

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