ブラザーズ・珈琲物10

  ブラザーズ珈琲物語10

初めての挫折2
従業員が運転する貨物ワゴン車の後部座席に乗せられて、近くの整形外科病院を尋ねたが、その日は休業日だった。兎に角、近くの総合病院に行ってみようという事で米子では良く知られている博愛病院まで行った。途中、車が小さなデポボコにあたると息が詰まるような痛みが走った。初診の窓口を尋ね事情を相談したら、予約がないと受け付けないというではないか。これは救急治療を要する状態であるのに何という事を言うのだと、思い耳を疑ってしまったが、息も絶え絶えの怪我人が受付まで歩いて行ったのが、不味かったのかなと後で想い返した。

如何すべきか悩んだ挙句、救急車を病院まで呼ぶことにした。暫くして、救急車に乗せられて病院を出発した。その車中で、名前、生年月日、住所、など聞かれたがこんなに苦しんでいるのに何故問診のような事をするのか?と、腹が立ってきたが、意識や精神状態を確認していたのだろうと思うようになった。車中では消防署の救急隊員がサイレンを鳴らして病院を出たのは初めてだという会話をしていたことを思い出した。30分もすると米子市内の国立医療センターに入院することになった。古い病院ではあったが、米子市内では有数の病院である。早速、レントゲン撮影、CT検査をすませた。結論は腰椎1番の圧迫骨折であった。その映像を見たが地中の活断層がズレている様な微小なヒビが入っていた。たったこれだけのヒビで、こんなにも激痛が走るのかと感じたものである。

入院部屋は、4人部屋だいたい70代後半のお爺さんばかりである。62歳の私はそこでは最年少の若造である。みんな、腰、膝、肩を痛めて入院しているが内科系と頭はしっかりしていた。だから元気は甚だ良い。一日中しゃべっている。私は話す内容もないし、兎に角痛くて話すどころではない。
家族、親族はかなり心配した。家内はもはや、一生車椅子生活を覚悟したようだ。初めの一週間は石膏のギブスで胴体を固めて安静が必要であった。

何にもできない日が数日続き全身が痒くなってきた。もう我慢できなくなって看護婦さんに掻いてくださいと頼んでも、我慢、我慢というだけである。2週間目に入るともうとても我慢できない痒みの故、看護婦さんに孫の手はないかと懇願したら分かったと言って物差し定規を持て来て、先生に言うたらアカンと口止めされた。

もう何でもよい、何とかとハサミは使いようというが、物差しも使いようだ。2週間ほどはギブスの儘であったが困った事というのは、痒みだけではなかった。トイレである、小は立った儘何とか成るが、大はどうするんだ? 兎に角便器に座れない、介護状態で何とか座っても今度は自分で拭けない。当然ながら誰かに拭いて貰うしかない。こんなに恥ずかしく情けない事はなかった。きっと介護施設などに入っている方々はこんな気持ちだろうなぁと思われた。そして、暫くすると、ギブスが取れて、コルセットになった。

取れてかなり身軽になれて気持ちが楽になった。痛みもなくなったが、無理は厳禁だったのでやはり一日中ベッドの上で安静が必要だった。此処が私の性分でチョット良くなるとじっとしておれない、iパッドをいじりたくなってきた。これ一台あるだけでベッドの上で、大体の用事は済ます事が出来た。時には、今でいうテレワークである。ベッドの上が社長室である。わずか数人の社員たちと動画で会議をする事が出来た。

まるで、宇宙ステーションから地上と会話をしている雰囲気であった。今はテレワーク会議は週に数回はあり特別困難でもなくストレスはないが、今から8年前は慣れるまで時間がかかった。ある時は一日中アイ.パッドを操作して肩が凝り、頭が痛くなって医者に相談したらあまり遅くまでアイ.パッドをいじらない様に注意された。誰かがチクッたなぁと思ったが医者の言うとおりである。このように少し良くなると頭も、手足も少しずつ軽くなってきたが矢張り、ベッドに寝た切りであった。相変わらず、アイパッドからオシメパッドまでお世話になっていた。

アイパッドの使い過ぎである時は、余りにも頭が痛いので相談すると座薬を入れるように指示された。若い白衣の天使の看護婦さんの白魚のような指で座薬を入れてくれるのだ。ところが緊張しているのか座薬が入らない、一生懸命入れようとするが入らない。力を抜いてください、力を抜いてくださいと言ってくれるが入らない、力を抜いたら、屁が出るではないかとも言えないし、、、我慢するしかなかったが。今では笑い話でしかないがその時は真剣だった。

そんなことがあって、やっと1ヶ月が過ぎて退院できた。完全に快復するまでには1年位かかったが、忘れられない記憶であった。
今夜も眠くなったよ。お休みzuzu

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